inkcube.org代表のMemorandum

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医薬品と特許

今日は少し難しく,意見の分かれる話題を取り上げてみようと思う.

医薬品における特許の在り方である.

医療行為(手術や治療行為)については,見直しの要請があるものの現在でも特許の対象としない運用が一般的には行われている.

医薬品に関しては当然特許の対象であるが,時として(特に高額な医薬品に対しては),特許のあり方に対する意見が分かれるケースがあり,昨今の新型コロナウィルスに対するワクチンや,エイズ治療薬に対しては,「特許を認めるべき(特許を使う場合は相当の使用料を支払うべき)」と,「認めるべきではない(例外的に侵害を認めるべき)」というように意見が分かれた議論が高まっている.

「特許を認めるべき」という主張の骨子は,特許(特に独占的使用権)を認めなければ,莫大な投資をして新薬を開発するモチベーションがなくなり(営利企業の存在理由がなくなり),ひいては人類の健康に対する寄与ができなくということを言っていると思う.

一方,侵害を例外的に許すべき(特許を認めないのではなく,侵害を認めるという意見が多い)立場は,途上国の人々は(投資の回収額が上乗せられた)高額なオリジナルな医薬品は購入できないし,別な会社が製造するにしても高額な特許使用料を払えば医薬品も高額にならざるを得ない.だから特許侵害を例外的に認め,安く販売すべきだということを主張していると思う.

どちらの主張の骨子も理解できるので,法律上ということではなく,私の考えとしてはどちらか一方が正しく,どちらか一方が間違いとも言えない.

この意見対立の難しさを示す過去の事例として,フレミングペニシリンの特許を取らなかったのは,広く普及させたいという考えに沿ったものだが,結果的には営利の見込みがなく,製造する企業がなかなか現れず普及が遅れたという歴史もある.

今のマスメディアの報道から伝わってくる議論は,どちらか一方の主張の可否を問うガチな議論のみで,たとえどちらかの主張に沿った結果になっても,両方の主張の骨子を満たすことはできない.

そこで私の意見は以下の通りである.そもそも特許法は「独占的に使用する」側面ばかり注目されるが,本来は「産業の発展」が目的であり,私は特許法の主旨について「発明内容を産業発展のために公開しなさい.その代わり一定期間の独占を認めます」と理解している.この理解に基づけば,いかなる侵害に対しても例外を認めてはいけない.そこで,相当の特許使用料を政府や国際機関(WHO等)が発明した会社に支払い,そして別の会社に譲渡して安く製造させれば(再生産品)良い.このやり方であれば製薬会社も,途上国での低価格化も両方の主張を満たせるのではないか.

ただしここでも問題はある.では,オリジナルな高額な薬を誰が買うのか.先進国であっても安い製薬を求めるだろう.製薬会社には特許使用料は入るかもしれないが,自社の薬は売れなくなる.

再生産の医薬は途上国でしか売れないようにし,先進国の人は途上国の人への貢献として高いオリジナルを買うしかないだろう.しかし,先進国にも貧困の問題はある.単に国で線引きすれば解決するものではない.私の意見もまだ問題を抱えているが,少なくとも現在行われている国で堺を引いた問題は解決できるのではないか.国内の貧困の差は特許法の議論ではなく,行政の課題として扱うべきではないだろうか.

みなさんはどう思われるだろうか.