inkcube.org代表のMemorandum

インクジェット,3D,その他テクノロジーについて.

大学からの帰り道

先日,以前から存じてあげておりコロナ前には良く学会等でお会いしていたある大学の先生に呼ばれ,研究室を訪問してきた.先生の研究テーマに関し困っていることがあり助言が欲しいとのことだった.この先生は流体力学,音響学の専門家であり,いくら私がインクジェットの経験が長く知識があるといっても,先生の(おそらく高度な)困りごとに応えることができるか心配であった. まずはお互いの近況や先生の他の研究テーマの状況を聞いた後,困りごとを抱えるそのテーマの実験室に移動して,装置を動かしながらディスカッションを行った.実験室で過ごした約2時間のあいだ,先生や学生の質問に対する私の回答や,種々の問題点に対する私の意見について,先生も学生も熱心にメモをとっておられ,また私の説明についてさらなる質問をされていた.そんなことから少しは私が来たかいがあったのかなと安堵して帰路についた. 私の回答や様々な説明は,おそらくインクジェットの経験者ならある程度は同じようにできたかもしれないと思う.大学からの帰り道,そう思いながらもうひとつと強く思ったのは,まさにこれが機能分担型進化 の一過程になるかもしれないということであった.実験室での私の話は先生のテーマの原理(本質的な流体力学や音響学)に及ぶ高度な内容にはなっていないと思う.しかし先生が私の話を聞かれて,本質的なこと(原理)の「パラメータの範囲では解決出来ないのかもしれない」,と帰り際に私に言われたことは,まさに他のシステムを導入し,大きな課題解決の機能を分担する機能分担型の進化の必要性を先生が感じられたのかもしれない.(大学から帰る電車の中で,このメモを書き始めたので,このタイトルにした) 先生が私に連絡をくださったのも,きっと先生のTransactive Memoryの中でこのテーマ問題に関し私がひっかかったのだと思う. 大学を訪問した前の週,友人に誘われ友人が勤める会社を訪問し,若手技術者と話をした.その際,狭い領域の中だけでがむしゃらに頑張るだけではなく,機能分担型もイノベーションを起こすアプローチであり,そのために必要なのがTransactional Memoryだという話をした. まさかその翌週に自分でそれを認識する機会に出会うとは思ってもみなかった.このことをぜひ,先週訪問した会社の若手に伝えてあげたいのだが,このメモを読んでくれていると良いなと思う. 例年より遅い大学構内の鮮やかな紅葉とともに,私にとっても記憶に残る午後であった. p.s. 上の文章で「インクジェットの経験者ならある程度は同じようにできたかもしれない」と書いた.まさに枯れた技術を挑戦者に移転するという,inkcube.orgの狙いそのものであることも,ここで強く伝えておきたい.