inkcube.org代表のMemorandum

インクジェット,3D,その他テクノロジーについて.

Siphon Recorder

文献(論文,記事)や特許を読むことは,技術の幅を広げ,深めるために当然必要な行為である.

ホームページに公開しているインクジェット関連の保有文献数は3000あまりだが,掲載してないものを含めれば4000近い文献を保有している.すべて読んでいるわけではないが,面白いと思った文献は必ず手元に置くようにしている.

保有している文献や特許はネットで検索しダウンロードできるものも多いが,今ではなかなか入手できないものもある.こういったものもいつか改めて紹介したいと思う.

今回は,苦労して入手した古いインクジェットに関する写真についての話.

2008年に書籍「インクジェット」を監修,執筆した際,インクジェットの歴史を書く必要があり,歴史において重要なプリンタの写真を掲載したいと思った.(この時考えたインクジェットの定義に基づく)世界初のインクジェットプリンタとしているVideojetは幸いカタログを持っていたが,他の文献などで世界初と書かれることもあるKelvinのSiphon RecorderとElmqvistのMingographの写真をどうしても掲載したかった.

もちろん当時でもネットで検索すればこれらと思われる写真は見つかったが,書籍に掲載するには著作権をクリアする必要があり,ネットの写真をそのまま載せるわけにはいかなかった.

そんな中,ネットで見つけたSiphon Recorderの写真にHunterian Museum(@Glasgow)に展示されているものがあり,撮影者のメールアドレスが記載されているサイトがあった.すぐにこの撮影者にメールを書き,書籍を出版するので掲載させて欲しいと依頼した.届くかどうか,返事が来るかどうかも半信半疑であったが,幸いにもしばらくして掲載OKの返事が来た.Siphon Recorderは多くの改良型があり,書籍に掲載した写真は一番最初のものではないが,念願の写真を掲載することができた.後日撮影者には学会誌に掲載した解説記事を送った.

Mingographのネットでの写真は撮影者や写真の所有者を探し当てることができなかった.そこで開発者のElmqvistがSiemensにいたことから,Siemensの日本支社にメールを書いて事情を説明したところ,親切にもSiemens本社を紹介してくれたのか,本社に問い合わせてくれたのか今となっては覚えていないが,当時のカタログのコピーを送ってくれ,写真の掲載も許諾してくれた.

これはたまたま成功した例だが,実は同じような試みは失敗の方が多かった.いずれにしてもインクジェットの歴史を自分なりにきちんとまとめたいと思っていた時に,書籍を監修する良いチャンスを得たので,なんとかしたいという熱意は非常に高かった.もちろん書籍に書いた歴史は,写真以外もきちんとした証跡に基づく必要があり,相当量の文献や特許を読んだ.これらも今,保有している貴重な財産である.

もっかの悩みはこういった貴重な資料(インクジェット黎明期の古いカタログも多くある)をどうやって次の世代に引き継いでいこうかということである.

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