inkcube.org代表のMemorandum

インクジェット,3D,その他テクノロジーについて.

オーネゾルゲ数

今週,日本画像学会のICJ2021 Springを聴講した.

例年このコンファレンスは秋に関西で行われるもので,今年は秋に別の国際会議を開催するため,この時期にオンラインで開催した.

これまでこのコンファレンスにはインクジェットに関する発表は2~3件程度しかなかったが,今年は招待や記念講演を含めれば13件の発表があり,全て関心を持って聞かせていただいた.発表者のみなさん,お疲れさまでした.

13件のうちいわゆる一般発表は10件であったが,特定の大学からの発表が多かったこともあり,シミュレーションや液滴吐出現象の解析に関する発表が多かった.

さて,今回の発表においてインクパラメータからなる無次元数のオーネゾルゲ数(Ohnesorge number)により,吐出現象を説明,特徴つける発表が2件あった.当日いくつか意見もありまだ課題はありそうだが,かなり関係付けができていた.続報を待ちたい.

インクジェットの研究にオーネゾルゲ数が使われているのを私が知ったのは,実はわりと最近である(もちろんレイノルズ数ウェーバー数を解析に使っていたのは古くから知っていたが).5年くらい前の海外の学会での発表で初めて聞き,あわてて参考文献などを取り寄せ多くの研究が行われているのを知った.オーネゾルゲ数は1936年にWolfgang von Ohnesorgeが発表した論文の中で用いた無次元数をのちにオーネゾルゲ数と呼び始めたらしいが,インクジェットの液滴吐出(連続噴射型も含め)に関し,この15年くらいで多くの発表が見られる.

前述したように私自身がオーネゾルゲ数に注目した研究自体を行ったことがないので,以下に述べる内容には間違った解釈があるかもしれないが,指摘も歓迎するということで書いてみる.

オーネゾルゲ数で様々な吐出現象を説明する,あるいは吐出現象と関係付けることは学術的にはとても面白いし,これまでにない見方をすることができとても意義があると思う.

一方,もし吐出現象との関係を見出し,最適な吐出現象(例えばサテライトフリー)を発生するオーネゾルゲ数を推定し,そこからインク物性(設計)に活かそうとしているとすれば,方向自体は全く正しいのであるが,現実として難しいのではと感じる.

何故かといえば,インク物性のWindow(オーネゾルゲ数に含まれる粘度,表面張力,密度)のうち,例えばまだ80%位が未経験領域で,経験済の20%からこの関係を見出して,残り80%の領域から最適解を効率良く見つけ出す,というのなら意味があると思う.しかしそもそもインクジェットで吐出できる物性のWindowはそれほど広くなく(特にオンデマンド型で),これまでのインクジェットの研究,開発の歴史の中でほぼこのWindowの中のインクは実験的に作られ,オーネゾルゲ数の概念がなくとも正常な吐出ができる範囲で(他の要求特性も含め)サテライトフリー含む好ましい吐出状態を得るためのインク設計が行われているのではないだろうか.その結果が今のインクジェットの現状ではないだろうか(つまり他の特性を満足する中でのサテライトフリーなどの実現が困難である状況).

ぜひ,オーゲゾルネ数をインク設計,あるいはヘッド設計や駆動条件にどう活かすのか(活かせたのか),関わらせるのか(関わらせたのか)も含めた発表を今後期待したい.