inkcube.org代表のMemorandum

インクジェット,3D,その他テクノロジーについて.

80kHz

京セラが新しい循環式の1200npiプリントヘッドKJ4B-EXを発表した.

駆動周波数は80kHzであり,これまでより25%向上したと記載されている.

20年くらい前までは,PIJもTIJも新しいヘッドが発表される際には駆動周波数の表記が必ずあり,トレンドを追いやすかった.その後徐々に周波数を公表しない会社が増え,また公表されたとしてもそれがドット1つを形成する液滴の吐出周波数なのか,複数の(バースト)ドロップで1つのドットを形成する際のバーストドロップの吐出周波数なのか説明されていなかった.それでも公表されたプリント解像度やプリント速度から,<コンシューマー市場向けの>PIJでも実質の1ドットを形成するための最高駆動周波数は70kHz程度だと考え,それがインク滴量の微小化が止まった状況で(リフィル速度向上が望めないので)ほとんど向上していない現状をこれまでの講演等でも説明してきた.

70kHzと80kHz,大きな違いではないかもしれない.またPIJの駆動周波数を規定する要因はリフィルだけでなく,駆動パルス波形の長さやクロストークなども現実としてあり,改善の余地はまだあったのだろう.

<産業市場向けではあるが>プレス発表には流路デザインやヘッド構造の最適化を行った結果とある.100%や50%の向上,また100kHzや150kHzではなく25%向上の80kHzなら従来からの最適化で達成可能だったのかもしれない.

今後の上限値を改めて見極める上でも,ぜひ学会で詳しく改善ポイントを発表して欲しい(特許は出願済なのだろうから).しかしこれも残念ながら京セラの学術的な発表もしばらく見ていない.

他の企業にも言えることだが学会での発表をビジネス,利益観点でしか考えられない人が多い.この領域では学会といえども大学だけでなく企業の研究・開発に依存しているところは大きく,業界や市場状況の影響を受けるのは仕方がない.各社,独自の努力のみでビジネスを伸ばしていける状況ならそれは仕方がないが,大きく流れを変えなければいけない岐路にさしかかったとき,技術ベースの議論を経た考察の共有が重要になってくるはずである.そして,その岐路はすでに多くのパスで現れてきている.