inkcube.org代表のMemorandum

インクジェット,3D,その他テクノロジーについて.

Planned Happenstance Theory

Planned Happenstance Theory(計画された偶発性理論)はスタンフォード大学教授のジョン・D・クランボルツ博士が提唱したものである.その理論は要約すれば「人生の80%は偶然の出来事に左右される」「ただし自分にとってよい偶然を発生させる確率は自らの行動で高めることができる」ということらしいが,ここでは後者について特に話をしたい.

Transactive Memoryにより意味ある人へのアクセスが容易に可能になることは前回述べた.こういった行動により,さらにネットワークが広がり予期していない(自分に有用な)人との出会いもあるだろう.クランボルツ博士の理論をちゃんと理解しているわけではないが,こういうことが本来の意味なのかもしれない.しかし”偶然”とは言えないかもしれないが,人との出会いや何かの機会に,相手,あるいはそこに居合わせた人のTransactive Memoryに自分を書き込むことができれば確率は低いかもしれないが,自分にとって良い偶然がその後起こることにつながると考えており,そういった体験をわりと多く経験している.そこまで含めてPlanned Happenstance Theoryだと勝手に解釈している.

会社を辞める前に行った技術系社員への特別講演で見せたことがあるが,「仕事のつながり」と名付けた自分の年表を作り,毎年更新してきた.そこでは私が関連した社外の仕事,イベントや活動が,それらとは関係ないその後の他の(社外の)仕事や私の評価にどう関係したかを振り返っている.

具体例をあげれば,2008年に書籍「インクジェット」の監修・執筆を行った(2018年には改訂版を出した).インクジェットの書籍を出版することは,(1999年に立てた)「一流の技術者になる」という私の目標(あるべき姿)の達成度を計る尺度の1つであった(目標ではない).目標ではなく尺度なので書籍を出すために直接の活動(出版社への売り込み等)を行ったわけではない.2007年私のインクジェット技術講習会に,インクジェット含めた書籍の企画を考え,監修できる人を探していた人がたまたま講習会の実行委員として居合わせた.私の話した内容全体が非常に良くまとまっているので,書籍の監修をお願いしたいと,その方に依頼され(紆余曲折はあったものの)出版が実現した.

これはある意味偶然であるが,出会いの場である技術講習会の講師を引き受けたのは自分の意思である.さらには技術講習会講師の依頼があったのは,インクジェット技術部会主査であったことや,社内でインクジェット技術入門講座を企画し長年実施してきた裏付けがあったからだ.(さらに主査になったことや講座開設の前にも,それにつながる自分の行動がある).このように自ら書籍を書こうと行動したのではなく,他の自分の行動から偶然つながったものである.

もちろん他人のTransactive Memoryに書き込まれるには,自分の存在が意義あるものでなければならず,そのための努力や実践が必要なのは言うまでもない.