inkcube.org代表のMemorandum

インクジェット,3D,その他テクノロジーについて.

利害の対立

かつての上司が話してくれたことで,歳をとるにつれそれを守らなければと思うことがある.そのことは今でも決して心から良い,正しい事だと思っているわけではないが,過去の自分の失敗やうまく結果を残せなかった原因の1つになっているのではないかと思うことがある.

ちなみにその上司との相性は最悪であったし,彼は私のことを評価もしてくれていなかった.私も彼の行動や考え方には賛同できないことが多く対立も多かった.

社内でケンカ,といっても暴力のケンカではなく意見や利害が対立することであるが,決して100%勝てるケンカでも100:0で勝つな,と教えられたことである.もちろん技術的な対立のことではない.技術はデータや結果が裏付ける正しさなら,自分の主張を100%通す努力をすべきである.

そういうことではなく,日常で起こり得る組織や立場にかかわる利害の対立において,いくら自分の主張が正しく,また支持する人が圧倒的に多く完全に勝てるケンカにおいても,10%でも良いので相手に勝った気にさせろというのである.「お互いの正しいところをうまく取り入れた結論にする」という当たりまえのことを言っているのではない.それどころか100:0で勝てるケンカでも51:49で勝てば良い,とも言えるような話をされていた.「相手をたてる」ということに近いのかもしれないが,相手に自分の主張も通った,という印象を持たせることが大事である,という話だった.社内では対立した人と,特に利害が対立するくらい身近の関係にあれば,今後も社内で一緒に仕事を進めることも多々あるだろう.その時にスムーズに仕事を進め,自分の思うような結果を出す,ということを重視するならば決して敵をつくるべきではない,という教えだったのだと思う.裁判ではないのだから.

 

私はこういった立ち振る舞いを考えること自体が嫌いだったし,会社時代,この教えをほとんど実践できなかった.決して自分の実績の言い訳にするつもりはないが,敵は多かった.

会社を離れた今,なぜこの思いを書いていると言えば,長年続けている学会活動の中でインクジェット,3Dプリンタ,そして技術者・研究者の育成にとって(私が)正しいと考え,必要な施策を実施することを最重要視するなら,本質的でないところで敵を作る必要がないことを強く感じているからである.