inkcube.org代表のMemorandum

インクジェット,3D,その他テクノロジーについて.

情報コントロール

これから書くことは,管理職の方,これから管理職になる方,あるいは部下を持つ上司という立場になる方へのお願いでもある.

管理職という立場になると部下の方よりも圧倒的に多くの種類,多くの量の情報が入ってくる.人事,業績,そして技術や市場の情報も.これらの情報を部下の方への開示する際のコントロールを,部下との関係維持のために使って欲しくないということである.

私の経験も踏まえてもう少し分かりやすく書こう.

技術系の管理職でも第一線の技術者と同様,いやそれ以上に研究・開発に取り組まれている方もいると思う.しかし一般的には評価,報告等の業務が増え,また管掌するテーマや技術範囲も広がり以前のように技術の最前線に立てない,立つ時間が減る,技術の深堀ができなくなるケースが多い.そういう状況が続けば研究・開発現場で起きている事象,そして関連技術に現場の部下の方が詳しくなるのは自然の成り行きである.もちろん管理職もそれを報告や対話によって常に遅れなく吸収し,あるいは必要なアクションを起こすようであれば問題ない.しかしその持っている現場,関連技術情報の差を埋める,つまりあくまでも部下に対して技術者としての優位な立場を維持するために,自分が知り得た情報の部下への開示をコントロールし,自分は知っているが部下は知らない,という状況でその差を埋めることをしがちである(私はそういうことをしたことがないので,正しい分析になっているかどうかはわからないが).

サーマルインクジェットの研究を始めた当初,アメリカの親会社と共同で進めていたため,親会社から多くの技術情報,競合情報などが私の上司に入ってきていた.しかしそれらの情報は部下の我々に開示されないどころか,どういう情報があるかさえわからない状態であった.部下の我々が自分で実験し,あるいは調べてわかったことを上司に報告すると,それは親会社からのレポートで知っているよ,と言われたことが幾度もあった.米国で開催される親会社とのWork Shopには,担当者ではなく必ず上司が出席し,こちらの情報は部下から集め,戻ってきても簡単な報告だけで入手した詳細な技術情報が開示されたのはまれであった.

ここまで極端でないにしろ,現場情報の差による自分の立場の弱さを,入手した情報のコントロールで補うことはすべきでない.経験や持っている知見から,情報の分析や今後の展開において部下より優れた方策を生み出すことが,優れた技術者として部下に示す態度であるべきだ.

もちろん人事情報,会社業績に係ることは管理責任を負う管理職内で留めておかなければならないものもあるが,それ以外,特に技術,市場.競合情報は全て共有すべきである.ただし機密とされた人事や業績情報でも,部下に開示してまずいと私が思ったものはごくわずかしかなかったが.